2014年8月14日木曜日

「まんだらけ」問題について





(写真はまんだらけWeb Siteより)

万引き犯(容疑者)の防犯カメラの画像を、指定期日までに返却がない場合はモザイクをはずして公開する、とした「まんだらけ」の行為が問題になっています。

気持ちはわかりますね。

万引きによる被害額は、経済産業省の2009年の商業統計によれば、年間約4615億円だそうです。
しかもこれは氷山の一角だとする意見もあります。
たいへんな金額ですね。

「鬼灯の冷徹」の作者、江口夏実さんもデビュー前に働いていたお店が万引き被害に苦しんでいたことを、作品中でネタにしていますが、まだトラウマが癒えていないようです。

(講談社刊「鬼灯の冷徹」第2巻より)

「まんだらけ」が「顔出し」宣言を行ってから、賛否両論喧しいですが、法律家からの意見が、何となくポイントがずれているように感じます。

もし公開したら、「名誉棄損」になるとか、そもそも顔出し警告自体が「脅迫」だとか、それ自体は間違っていませんが、最初に語るポイントはそこでしょうか。

要は、「やられたらやりかえす」でいいのか、という問題です。

これについては、日本国憲法第31条に、以下の規定があります。

何人も、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、 又はその他の刑罰を科せられない。

「罪刑法定主義」、「私的制裁(私刑)の禁止」を定めているものです。

被害を受けたからといって、他人を勝手に罰することは認められていません。
社会秩序が維持できなくなるからです。

星新一さんがエッセイの中で、日本で死刑が廃止できないのは、仇討ちを復活させないためであろう、と述べていました。
また、新渡戸稲造「武士道」にも、日本が法治国家になったので、武士の仇討ちという風習は廃止された旨の記述があります。

では殴られたら殴られっぱなしなのか。

基本的には警察はそのためにあるわけです。

例外はないのか。

まず正当防衛と緊急避難について考えてみます。
刑法36条の正当防衛は、
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。(2項略)
同37条の緊急避難は、
自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危険を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。(1項但し書き、2項略)

両方とも、差し迫った危険に対しては、相手を傷つけても罰されない場合があることを規定していますが、既に行われた犯罪被害に対しては適用することはできないと考えられます。

万引き被害者の心情は察するに余りありますが、やはり私人が制裁することは認められない、と判断せざるを得ません。

もうひとつの問題は、今回の問題を認めれば、「悪い奴だから、晒す」という行為を正当化することになってしまいます。

これは既に問題になっていますが、一度ネット上に流出したものは、元のサイトから情報を削除することはできても、拡散してしまったものをすべて削除することが事実上不可能です。

私人が「悪い」と判断したものをネット上に晒してもよい、つまり、個別の「善悪」の判断に従って回復不能の被害が発生してもかまわない、というのは、かなり危険な考え方だと思います。

「まんだらけ」にはたぶん他の画像もあって、犯罪を構成するに十分な証拠も揃っているのでしょうが、他のケースがすべてそうなるとは限りませんし、もしかしたら「まんだらけ」の画像だって、真犯人が素早く盗み取った直後にトイレが近くて慌てて走っていた不運な人のものかも知れないのです。

私人によるネット上の「公開処刑」は慎まなければいけないでしょう。

ところで、別の見方ですが、 警視庁は、正式に「まんだらけ」に対して公開中止要請を行った以上、面子にかけてこの万引き事件を解決しなければならなくなりました。
結構プレッシャーがかかりますね。

他の万引き捜査に手抜きをしているとは思いませんが、この事件にはより以上の力を込めて捜査が行われると思いますから、犯人が逃げ切るのは困難でしょう。

また犯人は、逮捕された際に、氏名など報道されてしまうことになるのではないでしょうか。
よくある警察やガードマンへの密着取材番組で、捕まった万引き犯が、モザイク処理などされて身元がわからないようにされているのに対して、社会的制裁は重いものになるような気がします。

高くついた、ということですね。

犯罪はそもそも引き合わない、と浅田次郎さんもエッセイの中で語っています。
犯罪を成功させるだけの努力やエネルギー、知恵を費やすなら、まともな仕事をした方がはるかに儲かる、とのこと。

至言です。

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